片思い
ハクオロにもっとも近い少女を見るたび、オボロの胸がチクリと痛む。エルルゥのことだ。
気立てがよく、しっかりした少女で、オボロも好感を抱いている。
だが、ハクオロ絡みになると別なのだ。
ハクオロとエルルゥは傍から見ればとても仲がいい。
エルルゥは誰からも慕われる性格なのだから、ハクオロに好かれて当然だろう。
「はぁ・・・」
オボロは溜息を林の中でついていた。二人の関係を見るのが耐えられず、
逃げるようにして剣の練習をしていたのだ。ハクオロがエルルゥに見せる顔は
優しく、それでいてどこか嬉しそうだった。
胸がチクリと痛むのを抑えて林の中へ入っていった。
そして剣の修行をしていたのだが――。
だがいつもの調子はどこへやら。何だか精神が統一されないのだ。
「はぁ〜………。」
今にも不意をつかれたら殺されそうである。
「あーあ。俺もエルルゥみたいになれたらなぁ………。」
気立てがよく、明るく家庭的な女性になれたらと常日頃思ってしまう。
特に、ハクオロが現れたあたりから更に思ってしまうのだ。
女を隠そうとし、男体化の薬を自分から飲んだのに、結局中身までは男になれないらしい。
最近では、薬の効果も免疫が出始めてきたのか以前より効き目が鈍ってきたのだ。
またまた悩みは増えていくばかり。だが、以外にも悩みを抱えている者がもう一人、
いたりするのだが――。
エルルゥは日に日に遠い人になっていくハクオロに想いを寄せていた。戦が始まってから
ハクオロはどんどん忙しくなり、会話をする時間さえ減っていた。
そして遠くなっていく代わりに、オボロがハクオロに近づいていくのを感じている。
ハクオロもオボロにはやさしく、オボロもハクオロを兄として慕っている。
最初はほのぼのとした風景で見ていたが、時折オボロがハクオロに見せる顔に
何か違和感を感じるのだ。それが一種の――。
「や、やだ!オボロさんは男の人よ!!」
無理やり妄想をかき消すようにパンと洗濯物を引き伸ばす。
乾いた音が空に響き、いい音なのだが気分が優れることはなかった。。
シーツは皺がなく、ピンと張っている。
「この調子なら今日中に乾きそうね………ん?」
その白さを見て、不意にオボロをまた思い出す。彼の真っさらな瞳と心は自分にはない、
なにか誓いを秘めた目に自分は勝てるのだろうか?
ただハクオロの背中を見送ることしかできない自分に。
不安の波が押し寄せ、エルルゥの心を駆り立てる。
もしハクオロがオボロと一緒になったら――?
「ってまた私ってば!オボロさんは男の人よ!ハクオロさんに惚れてなんていないわっ。」
パンとまたシーツを張り、無理にエルルゥは冷静さを保とうとしていた。
木々の中から差し込む光に目を細め、快晴の空に向かって言う。
「やっぱり優しさもいるんだろうか?」
白い洗濯物が微風に流れる中、快晴の空に向かって言う。
「やっぱり強くなくちゃ近づけないの?」
「「あの人のように」」