天才魔道師と堅物騎士の休日
慌てて待ち合わせ先の公園の噴水まで走ってきた。
今現在午前10時半すぎ――駄目だ、完全に
遅刻ではないか。
カイルはスピードをあげて、相手が怒ってないのを
ただ願うばかりだった。相手は滅多ことでは怒鳴らないが、
サラリときつい事を言われてしまうことは結構ある。
怒るとしたら静かに怒るのだろうか。
公園の南口から出て、遊具施設を素通りする。
子供達からは「あのオジちゃん足速っ!」などと足が速い
ことよりも、オジちゃんと言われたことに少々が立つ。
まだまだ噴水場までは走らなければいけない。ルネス一
大きい公園はカイルをなお苦しめる。
せめて違うところで待ち合わせてしておくんだった。
などと今更後悔しても意味がない。
これをフォルデが聞いたら机を叩き、腹を抑えて
大笑いすることだろう。
アイツがもしエフラムに言ったら――王座の前で何気なく
デートで大遅刻したらしいな?と事実を誇張して
何気なくいうだろうなぁ。
更にフォルデがそのことを部下に言ったらそれはそれで
上司としての威厳が減るではないか。
『えっ……?カイル将軍僕たちにはいつも遅刻するなーとか言っといて
彼女との待ち合わせで遅刻――?」
ちなみにカイルは戦功を讃えられフォルデとともに将軍に
出世し、過去のゼトの位置にいたりする(ただゼトは軍での総大将に
なり、エイリークの婚約者となり今恋のサーガを作っているので人生の大勝ち組。
恋も仕事もできる男として神格視しているものも多い。)
段々と被害妄想が出てきた。カイルは頭をぶんぶんと大きく振り
妄想を消そうとする。
木々の残像
人々の会話のノイズ
燦々と煌く太陽
澄み切った空
そして
ヘルプ ミー!と言わんばかりに何かから逃げている雀。
ああ、あの雀は自分とは逆で逃げているんだなぁ――と思った
矢先、その雀は自分の顔目掛けてやってくる。
「なっ!」
もしかしてこの雀、逃げるあまり周りが見えていないのでは!?だが雀は
周りどころか目の前にいる人間さえ見ていない。
だがそれに追い打ちをかけるように、雀の後ろを追うのは小さな炎。
雀の横を横切り、カイルの頬をかする。
「痛っ!」
「失敗してしまいました。でも今です。えいっ。」
雀は網に見事捕獲され、網を口ばしで切ろうとするが少女の魔の手が
近づき捕獲される。
「このルネススズメ。王都では行動パターンが随分と異なります。………あ、カイル?」
どうやら今この少女の興味の優先順位はカイルより雀だったらしい。
声に怒りが孕んでいない。
だがカイルにとっては一大事だ。慌てて謝罪の言葉を述べる。
「すまないルーテ。」
騎士のくせなのか頭を深くさげる。だがルーテの反応はカイルの思っていたことと
半分位異なっていた。
「いえ、以前私の作ったハバネロを多く入れたペペロンチーノに対して苦渋の顔を見せて
食べてくれたときよりは不愉快ではありません。」
他人にとっては非常に分かりにくい不愉快度だが、既に慣れているカイルにとっては
どれ位なのか分かっていた。彼女は全く怒っていない――。
ここが長くつきあえる一種の秘訣なのだろうか。
ルーテは何を言うのか、しでかすのかと行動パターンが一見読めないのだが、実際こう
長年いるとそれが分かっている。
勿論ルーテの奴隷だと自称するアスレイよりはわかってはいないだろう。だがカイルの
見解だと浮世離れした好奇心旺盛な天才肌の少女なのだ。そして恋愛に疎いと
大部分を除きさえすればごく普通の歳にあった少女であることも。
「しかしその網は何処から…?」
「これですか?近くのおじいさんから借りた物です。」
「じゃあ返してこようか。」
「はい。あ、15秒ほど待ってください。」
ルーテは握っている雀を空へ投げる。雀はバランスを崩しながらも飛行状態に入り、悪魔から
逃げていった。
「カイル。」
「ん?」
「今日は美術展に行くのをやめにして、動物研究所にしましょう。」
今日発見した事実を伝えにいくとルーテは決めるなり、網を返してカイルの手を引っ張る。
「早くいかないとこの感動が醒めかねません。」
魔道師と堅物騎士の休日は始まったばかりである。
後書き
不思議魔道師と奥手な堅物騎士のCPは好きですね。唯一ちゃんと決まっているCPです。
うちのアスレイの扱いはルーテの奴隷(自分から志願して)ですからね。
ある種落ち着いていなさそうで落ち着いていると思います。
てかカイルテよりカイルテカイだと思う。結構ルーテ優位。タイトルはトランペット吹きの休日から。
クラシックです。
多分今頃ヴァネさんはフレリア騎士になったフォルデをそれと阻止する弓王子の間で
揺れていますよ。にしてもカイルもヴァネも堅物騎士だ。