プラスチックスマイル
第1話 クラス替え
空は快晴で、そこにピンクの花びらが舞う。
時は4月――南壱郎は自転車で急な坂道を走っていた。
平々凡々な毎日で、平々凡々な性格だが学校は
楽しいと思う。これも全て変人達のおかげであり、
何より彼曰く可愛い彼女のおかげである。
「あ、壱じゃん。おはよう。」
ふと自転車を急ブレーキさせると1人の制服姿の
少女がいた。
「おはよ。お前相変わらず1人で帰ってんの?」
「失礼ねー。あたしだって好きで1人で登校している
ワケじゃねーよ。それよりあんた彼女は?」
「・・・・俺が寝過ごしてアイツ先行っちまったよ。」
しょんぼりした表情を見せ、壱郎はいう。少女は
呆れて馬鹿ね、と留めの一撃を出す。
「流石にあたしはあんた彼女じゃないから荷台には
乗ろうとはしないけれど・・・。」
「は・・・はい?」
全く状況が理解できない壱郎。だが少女は不敵な笑みを浮かべて、
壱郎の乗っている自転車の籠に自分の鞄を入れた。
「これ位は当然よね?」
「は・・・はい。」
状況を理解したのか、彼女の目からは、てめぇ男なら待たせるんじゃ
ねーぞオラ!、と脅迫染みた視線が痛いと感じた。
また、この季節が巡ってくる。
クラス替えの季節が。
壱郎達は今年で2年生になる。壱郎の通っている学校『公立桜ノ宮学館』は
別名『桜ノ宮学園』。ある1人の男性が国家予算並みの資産をこの学校に
使った。購買、食堂、カフェテリア、中庭など施設が充実している
あくまでこれは公立学校なのだ。そう――あくまで。
「おはよぉー!」
「おはよ智鶴。それと壱、遅い。」
「ぐはぁ!ひ・・・ひでぇよ葉月・・・。」
牧丘葉月――この少女が壱郎の彼女である。ほぼ非の打ち所のない可愛い
彼女である。
「クラス替えの紙、張り出された?」
「まだだよ。去年は違ったから今年は一緒だと良いね。」
笑顔を作り、窓のほうをじっと見る。窓の向こう側では職員が模造紙を取り出している。
そろそろクラスが決まるようだ。
「でもやっぱり3人とも同じクラスになりたいね・・・。」
智鶴が喋る――足音がした。
「ま、確率は高くないけど。うちの学校1学年6クラスあるし。」
葉月が喋る――足音が大きくなった。
「俺は当然葉月と一緒だな。」
やけに自信ありげな口調でいう――足音が段々大きくなり、3人の後ろで止まりと
がば!っと抱きつかれた。
「きゃっ!」
「おはよーーー!!智鶴ちゃん、グットモーニンーグ〜!」
1オクターブほど高い声を智鶴の耳元に響かせる少女と、その後ろにいる少し
身長の小さい少女。
「だぁぁうるさぁーい!やめて綾音ちゃん、止めていぶきちゃん!」
「もぉー誰もとめられーなぁーい。」
「・・・何やってるんだか。」
呆れた声を出す少女は1歩前へ出る。
「ホントごめんね。いつもコイツ、ハイテンションで。」
困りきった顔を見えていう。当のコイツは葉月の手を握って夢見がちな発言を
繰り広げる。
「いいよ。気にしてないし。」
智鶴が首を横数回する。
「それより、今年は分かれるかな?永遠のライバルに。」
「・・・ええ、別れたいわ・・・!てゆーか別れてみせる!」
智鶴は大げさにガッツポーズをする。智鶴の顔にはあの鬼畜最悪男の
顔が思い浮かんだ。
「あ、張り出されたぞ!」
クラス分けが書かれている模造紙が、壱郎の声とともに張られ始めた。