プラスチックスマイル
女子サッカー部ひまわりJAPAN
7月中旬――智鶴は真岸阿久里から借りたゲームをベンチに座りながらしていた。
飴を舐めながらコノ!だのクノ!だと口に出している辺り、彼女は完全にゲームの
虜になっている。周りの人物は彼女を不審者のような目つきで見ながら通り過ぎていった。
「あーっ!!?後ちょっとで全クリだったのに!」
けたたましい声を上げたながらまた智鶴は最終ステージからやり直す。ゲーム名は
『サモンライト』という本格派RPG。
「コノゥ!」
意味のない連打をして少しでも敵にヒットポイントを与えようとする。だが、所詮意味のない
行為である。
「ソイヤァ!」
Bボタンを今度は10回ほど連打する。凄まじい指の力でトントンと押すのだ。そして
数分後、彼女はようやく相手のHPを5まで減らすした。
だが――問題があったのだ。智鶴の動かすキャラクターのHPが3しかないのだ。次の
攻撃で全てが決まる。そう思い、攻撃ボタンを襲うとしたとき――。
突如上からサッカーボールが降ってきて、ブショっという鈍い音が響く。智鶴の頭に見事に
ボールが命中し、その衝撃で彼女は舌を噛んでしまい更にそのボールは智鶴を破滅への
ロンドへと導く(元ネタ分かるかな・・?)
ボールがボタンを押そうとしていた右手に当ったのだ。
「いっ!?」
最後、そのボールは智鶴の右足に辺り彼女の全てを狂わせた。不眠不休、ゲームに一直線、
周りなどお構いなし。このラスボス戦だけで2時間前までは攻撃さえもままらなかった彼女にとって
これこそがチャンスだったのに。結果、彼女はリセットボタンを押してしまい、ボス戦を最低1回は
やらなければいけない羽目になった。
「誰このサッカーボール!」
「ごめんごめん、あたしだけど――。」
「―――春季ちゃん。」
「ごめんね。土曜日試合があってさー。」
「いいよ。春季ちゃんいつも頑張ってるし。」
タオルで汗を吹きながら春季は言う。翠春季は一昨年に創立した女子サッカークラブのクラブ長なのだ。
土曜日に試合があるらしく、これに勝つと全国のランキングでベスト16に入れることができるらしい。
ちなみにチーム名はな●しこJAPANならぬひまわりJAPAN。
「・・・あれって葉月?」
横で後輩と喋っているのは智鶴にも見覚えのあるクラスメイト、牧丘葉月。彼女は部員の少ない
女子サッカークラブ彼女は助っ人をすることになった。今日はその届いたユニホームを着用して
彼女は練習に参加している。その隣で何故か怪しいオーラをかもし出すのは――。
「あのハァハァしてるヤツ、どうにかできない?それに、何だか桃色オーラを出しているのは気のせい?」
「それがさー・・・。」
言葉を濁しつつも、春季は近くにあったサッカーボールを壱郎の頭目掛けて蹴った。勿論壱郎に
クリティカルヒットしたのは良いのだが、今の興奮状態にいる彼には効かないらしい。
「ほらね。」
「恐るべし!愛の力。」
「数十分前からこれなんだけど。あたしじゃ無理みてーでさ。」
「じゃぁ無理だわ。」
うんうんと頷く智鶴に同意する春季。壱郎は葉月に可愛いね可愛いねなどと甘ったるい
言葉を次々に吐いてゆく。葉月は完全に困りきった顔をしているのが見えた。
「何ならボールでも蹴ってく?すっきりするよ。」
「・・・・・・・日々のストレスも解消されそうかな。」
「うん、できると思うよ。」
太陽が照りつけ蒸し暑い中、2人は日向から日陰へとボールを持って移動した。
「じゃぁ行くよー!」
「うん。」
日陰に入ったところで、だいぶ涼しくなった。寧ろ少しひんやりする位だが、さっきまで炎天下にいた
2人にとって余計涼しく感じただけなのかもしれない。春季は智鶴に慣らしといったところで軽くボールを蹴った。
「よっと。」
ポーンと軽く蹴られたボールは丁度良い速度で智鶴の前へとやってきた。
「行くぞぅ!」
ボーンと春季の蹴った時よりも力を入れて蹴る。だが、女子サッカー部の部長である春季には通用しない。
「いい感じ!」
ボン――とヘでもないように春季は蹴り返す。智鶴は負けじと思いっきり蹴り返す。
「ちょっと強くするね。」
「え!?ちょ・・・ちょっと!」
バンと先ほどよりも強く蹴った春季のボールにオロオロ慌てている智鶴。だが、とうとう彼女はボールを蹴ることが
できなかった。
「ごめん。ちょっとボール強すぎた。」
「ううん。でも楽しかったよ。久しぶりに色々発散できて・・・ね。」
発散できなかったあのカップルのほうを見る。葉月もとうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのか壱郎にいい加減に
してよ!、と言い壱郎は愕然としている。
「でもま、見ている分には楽しいけど、それと同じ位イチャイチャして嫌なんだよね。」
「あー、分かる分かる。」
智鶴はそろそろかと思い、腕時計を見る。4時40分をまわった所だ。
「そろそろ私用事があるから帰らないと。アイツ待ってるし。」
「アイツって?」
怪訝そうな顔をして言う春季に事情を説明する。
「四ノ原。アイツ弟のためにケーキ作るんだって。自分で言うのもなんだけど私、料理得意だし。」
「そうえいばそうだよね。」
「だから、教えてあげるの。その代わり、明日、メロンパン奢ってもらうていう話でね。」
あれ人気なんだよねーと言うと彼女は春季にボールを蹴り渡すと踵を返して生徒玄関のほうへと
走っていった。
「お待たせ!」
「遅いよ全く。」
正門で鞄を持ちながら、少々不機嫌気味な顔つきをしながら空也は立っていた。
「いやー、久しぶりに体を動かしてね。」
彼女は数回肩回しをすると、その分ちゃんとケーキ作り教えるから、と笑いがら言う。空也もふぅと息を吐くと
「仕方ないなぁ。」
――と言い、智鶴の傍に並んでスーパーへと行こうとした。