プラスチックスマイル
負けないぞ、承知しないぞ体育祭
「ごめん!」
2年A組のテントから聞こえたその声。それは牧丘葉月の声であった。
現在騎馬戦前の休憩。
「さっきのパン食い競争で捻挫しちゃって――」
「クソ誰なんだ!葉月に捻挫を負わせる奴は!」
(壱って彼女のことになるとコレだよ……(美紅))
近くにあるスナック菓子を軽く食べる。自分はもう出る競技は出たので
後は何をしても自由だ。なので違うクラスの久遠のところにさっき
遊びに言ってきて2人でお喋りをしてこのA組テントに戻ってきた。
「……でも葉月、次の騎馬戦に参加するんだよね?」
「そっ、だから代役見つけないと……少なくとも前の競技に
出ていない人で次の競技にも出ない人。あー、誰かいない?」
「………じゃあ決めちゃえ、みたいな。」
「美紅――?」
「大島ー。」
大島、と呼ばれた美紅の男友達は振り向く。
「八波と翼呼んできて〜。」
「分かったよ。てかお前暇だな。」
「ええ、暇ですとも。」
「………あのさぁ、マジでこれで決めるの?てか私じゃなくてもいいんだよね?」
「美紅ちゃん美紅ちゃん。俺次審判なんだけどさー。」
「口答え一切なし。」
「……何で俺まで拒否権ないんだ(壱郎)」
美紅達の前にあるのは3つのサイコロ。
「小堺さん?」
「ラ●オン?」
葉月と壱郎は顔を見合す。
「こらそこ。元ネタをばらすなっつーの。」
1つ目のサイコロには「誰」。2つ目のサイコロには「何」。3つ目には「どうする」と
描いてある。中には「やっぱり葉月参加」や「A組は不参加ってことで」などと
色々。しかしこんな物、何処から調達したのか。
「じゃあジャンケンしてこのサイコロ回す人決めろよ。」
「はぁい………じゃ、振る人いくよ。じゃんけん――」
『ポン!』
そして数分後。そこには智鶴の呻き声が聞こえた。
「ちょっと待てよ!サイコロの面って6面だよね!?」
「あー……そうだっけ?」
「無理してボケるなよ!壱に葉月、翼に恩田、そして私。これで平等にいくと5面だよなぁ?」
「…………や、ホントに知らなかったから〜。」
手を軽く振り笑顔。
「嘘つけぇ!どして私だけ2面使ってる?これは不平等だ!クソぅ、裁判所に
訴えてやる!」
ぎゃーぎゃー叫ぶ智鶴を横目で、うるさいなぁ、と低い声で黙らせる。
「えーっと……まとめますと。八波が、騎馬戦で、絶対参加意本人の意志は無視と
言う方向な感じで?」
「感じじゃないよ!」
「1つのダイエットだと思ってガンバレ。」
「嘘だ。絶対ガンバレなんて思ってないだろ。棒読みだぞそこぉ!」
「あー、健気に頑張ってるねえ。」
本部から不参加組(いぶき、綾音、扇菜、久遠)が運動場を見ている。のん気に
言っているのは久遠。彼女は今回怪我を理由に代わってもらった。本当は
そう大した傷ではないのだが、それを利用して代理を立てたのだ。あくどい。
「スポーツの秋だわ。」
「………扇菜ちゃんは食欲の秋だね。」
手元にあるチョコレートクッキーを食べ、紅茶を飲む。汗臭い戦場には
ミスマッチ。砂がかかるのを恐れ、彼女はテントの中のところで軽くティータイム。
「だって、ダイエットなんてもう少し涼しくなったほうがいいじゃない。」
「でも早めにやることに越したことないと思うよ。」
久遠の一言でライトセーバーが扇菜の首に命中。ぐさり、と何処からか音がする。
「――と、とにかく美味しければそれでいいじゃない。」
無理矢理丸め込む。
「だって、おいしい物に囲まれるのは1つの幸せなんだもの。」
「これだからダイエット、途中でいつもギブしてんだよねぇ〜。」
「うるさいわよ!とにかくこのクッキーはほろ苦い、そして紅茶は美味しいの!」
「それ、答えになってないって。」
図星。2本目のライトセーバーが今度は脳天にぐさりっ。
「………あ。」
「どうかした?」
「扇菜ちゃんをからかっている間にアイツ、取られちゃったよ。空也に。」
「……………いくら自分が体重が軽くて上に乗っているといえども、女の子を
狙うのはどうかと思う。」
いぶきは小声で言う。
(くっ……そろそろお腹がやばいのかもしれないわ。)
扇菜は飲み終えたティーカップにまた紅茶を注ぎ込んだ。そしてクッキーも
もう1つ追加して。
「ねぇ、今何処のクラスが勝ってるんだっけ?」
「2年D組。断トツトップだって。」
「すっごーいねぇ。」
綾音が言う。
「次A組。リレーを含めて全部1位でいけば勝てるって。」
得点板を見ながら冷静にいぶきは言った。
「…………そうこうしているうちに終わっちゃった。えーっと1番は……A組。次がB組だって。」
「智鶴ちゃんは負けたけど。」
「よりによって敏感くん、にだけど。」
アハハと綾音は笑いながら。
「A組。素材はいいのにね。今1つ団結してないもん。」
「各々の能力はどのクラスよりも上、なのにねぇ〜。」
「……………宝の持ち腐れ、ね。」
2年A組。強いのか弱いのかサッパリです。
「ねえねえ壱。」
「何だよ八波。」
壱郎に気持ち悪い位清々しい笑顔でニッコリ。
「次の障害物競走ヨロシク。」
「は!?お前何言って――」
壱郎の意見は無視。
「ヨロシクって言ってんの!」