プラスチックスマイル
第３話 俺から見たアイツら
チョークの音が、俺の眠気を誘っているように聞こえた。
始業式から早３日。
今寝てしまってはいけない。ついさっきも先生にチョークを額に
当てられたのだ。
――あれは本当に痛かった。もう少し手加減してほしかった。
（・・・・葉月とは席、ちょい遠いな。）
葉月のほうを一瞬見ると俺はすぐ黒板のほうに視線を移した。
アイツは欠伸をしながらも授業を受けている。俺のほうなど顔を
向けていない。
――悲しいな、と心の中で呟く。俺は常に愛がなければ生きられない男なのだ。
当然葉月の愛だ。ラブだな（馬鹿とは言わないで！）そう思うとやっぱり
俺は恋に溺れているのかもしれない。さて・・・・今は俺の得意教科だ。もう余裕なのだ。
一体どう時間潰しをしよう。
――ヤバイ、そろそろ俺の理性も切れそうだ。
『さて！そんな壱郎くんに問題。今、あなたは眠いですね？
では後20分間寝ますか？寝ませんか？』
・・・なんだこの一切伏線のない展開！しかも声の主は俺の脳内設定で
恩田に変わってやがる！クソ・・・！止めなければ。
だが、問答無用で恩田の繰り出す問題は先へ先へと進んでゆく
A.このまま夢の世界へとどっぶり浸かる
B.頑張ってノートをよる
C.君の右隣の翼のエロ本をじっくり眺める
『さて？今の気分は何かなぁ？』
（・・・おい！翼のヤツマジでエロ本・・・って読んでるー！！！？）
俺は翼のほうを見ると、アイツは教科書を読んでいる振りをしてエロ本を読んでいた。
そこには『メイドさんしゃ〜しゃ〜』という題名のメイド服を着た女の子達が良い歳した
お兄さんと戯れていた。最も、理事長の娘の嗜好とは違い、ロリっこがわんさかいるわけ
ではない。全く――アイツを誰か止めろよ。おい、なぁ。
ふと気付いた。そう言えば、何かとクラスを引っ張ってくれた元学級委員もいなければ、
破壊の女王もいない。そして、俺と似ているようであまり似ていない苦労少女もいない。
――新しいクラスになったのは嬉しい。今年も葉月と少しでも多く一緒に入られるから。
――新しいクラスになったのは悲しい。やっぱり、仲の良い知り合いを分かれたから。
（・・・・ホント、クラス替えとか終業式って楽しいけど、少し悲しいな。）
俺は心の中で思う。八波とそれなりに仲の良かった女子２人はいないし、
八波の永遠のライバルである錦織二十一もいない。
（・・・・最も、俺の生活に彼ら３人がいなくなる事で、葉月と会えなくなるワケじゃないしな。）
ま、アイツらも元気にしているだろう。俺は１人納得すると、眠気を抑えながらもノートを取り始めた時――。
『ああーー！いやぁっ。や、やめて先生！僕に・・・僕にチョークを投げつけないで下さい！』
『うわ！空也くん感じてる！先生、自己紹介の時コイツ自分から言ってたじゃん。』
『ご・・・ごめんなさい四ノ原くん。でもあなた寝ていて・・・！』
『先生知らないの？空也さんは元々超多感症で触ったり、叩いたりすると感じちゃうんですよ！？』
――前言撤回。さっきの台詞全部無しにして。俺はそういいたくなってきた。
騒動は２−Ｂから。・・・そうだ、コイツの存在を忘れていた。『四ノ原空也』の存在を。
生まれつきの超多感症。少し強く触れたり、叩いたりするだけで感じてしまうその厄介な
症状。去年コイツとは別のクラスだったが、よくこんな騒動があった。俺の周りは気にしてなど
いない。そう、もうほとんどの生徒が慣れてしまったのだ。
『ごめんなさい。四ノ原くん。私まだ新任で・・・・・。』
『でも、いくらチョーク投げなんて一部の教師しかしませんよ！（半ギレ）』
『・・・そうね・・。でも私はそれしかとりえがなくて・・・。』
『そんなの、とりえとか特技とかそんな問題じゃないです』
『そ・・・そんな！酷いわっ。私の教師を目指した大きな理由はそれなのに（泣）』
『じゃぁどうして僕をターゲットに選ぶんですか。』
『それはあなたが寝ていたから・・・・。』
『僕、自己紹介の時に言いましたよね！？僕を強く叩いたりするなって！
しかもチョーク投げだって立派な体罰ですよ！？』
『ちょ・・・ちょっと待って！！でも理事長はチョーク投げは立派な
教師としての第１段階だって・・・。』
『はぁぁあ！！？（その場にいた２−Ｂ全員が叫ぶ）』
はぁぁぁ・・・呆れた。なんつー不毛な論争だ。隣のクラスからはガタガタドンドン
ズッタンバッコンという何かを投げつける音が聞こえてくる。
――後１０分。後１０分すれば休み時間がやってくる。俺はそれまで、この騒音を美しい
ＢＧＭとして耳に入れながら授業を受けることにした。
やっぱり、いくら学年が上がるとは言え、全員が全員変わるわけではないのかもしれない。