プラスチックスマイル

壱郎の大冒険(前)


桜ノ宮学園には七不思議がある。
1.二宮金次郎の像が動き出す。
2.夜、音楽室から、昔自殺した男の断末魔が聞こえる
3.理科室のテレビが、夜の12時になると勝手に付く
4.ある条件が揃うと3階の女子トイレの窓が割れる。
5.美術室の机が、血で染まっている
6.ある条件が揃うと避難訓練用のベルが鳴る
7.夜の屋上で、何者かが後ろから人を突き落とす


これが七不思議だ。しかし、この学校が創立して約20年。
未だに全ての七不思議の実態を見たものは誰一人いない。

4月15日金曜日
この日に実行されようとした『七不思議を体感せよ!』企画。発案者は翼。
参加者が壱郎、智鶴、葉月、美紅の3人。
「桜ノ宮学園七不思議・・・どんなんだろうね。」
美紅は、七不思議の書かれているメモを見ながら言う。
「あの理事長や扇菜ちゃんさえ体験したことないらしいし・・・。」
智鶴、美紅は楽しそうな口調でいう。だが、この企画を楽しめないヤツもいる。
「・・・・・・な・・・なぁ・・・やめようぜ・・・。」
壱郎は楽しめないヤツだった。

彼は家に着いた後、自分以外の家族は誰一人帰宅していなかった。偶然にも
昨日買ったポテトチップス(うすしお)を自室でボリボリ食べている時、物音がしたのだ。
階段を上がり、それは壱郎の部屋の前で止まる。そして、ドドドドンドン!とドアを
いきなり叩き始めた。
『お、おい誰だよ!』
壱郎がドアの前へ近づいた瞬間バタン!と、けたたましい音を立てて開かれた。
俺はドアの近かった為に見事にドアに挟まれる。
『壱〜?・・・あ、いたいた。』
『・・・・翼・・・お前どうして・・・!?』
しかし、時既に遅し。翼は俺を見つけるなりすぐさま
ロープで亀縛り(SM縛り)を施し、
俺のネクタイを使い目隠しをした。

『な、何すんだよてめ!』
『今日の夜に学校へ行くんだ。当然お前も参加だよ。』
『断固拒否!俺は夜、葉月にメールをしなきゃならんのだ!』
『大丈夫!牧丘さんも今回参加するから。』
翼は壱郎の背中をバンバン叩きながら、俺の人権をシカトしながら言う。
『そんな問題じゃねー!』
『拒否権はないよ。さ、壱も夜の学校へ誘われるか。』

そして、今に至る。
「では!今から七不思議を体感しにいきまーす。」
仕切るのは智鶴。それに続くのは残りのメンツ。
「おい、八波(壱郎)」
「ん?」
「最初は何処のスポットなんだ?」
「最初?最初は、
動く二宮金次郎。
「・・・・・マジで?」
「まだ序の口だって(美紅)」

西校門から校舎の方角に歩いて数分後、そこに二宮金次郎の銅像がある。
「あ、コレよ。」
茂みの奥深くにある銅像。とっても目立たない場所にあるので、全校生徒の7割が
場所を知らない。
「へぇ〜。本当にあるんだ(葉月)」
「でもイマイチ目立たないよな(翼)」
「アレよ、理事長が仕方ないから作ったんじゃない?(智鶴)」
壱郎は勝手にツベコベ言っちゃっている3人を無視し、銅像のほうを見る。彼はこの銅像を
知っていた。前に数回ほど見た事がある。だが、違和感があった。何時もよりも大きい
その銅像。
(あれ・・・?)
銅像から、生気が感じられた。人の気配がする。壱郎は銅像を軽く睨んでみた。


ニタァ


銅像が彼に向かって怪しく顔を歪ませる。
「お・・・おい・・・。」
「ん?まさかお前早速オシッコ漏らしたか?」
漏らしてねーよこのバカっ!それより・・動いたんだ・・・銅像が。」
壱郎は、銅像を指しながら叫ぶように言った。
「って事はやっぱり七不思議はあった訳ねっ!(美紅)」
「嬉しそうに言うな――」

壱郎が言い終える寸前。
いきなり、その銅像は空へと飛び、下へ降りようとしていた。
「ふいぃぃぃぃ!!」

壱郎の声は声にならない叫びとなってー―動く銅像は壱郎達の前へと降りていった。
開眼した目、怪しく笑う黒ずんだ二宮金次郎。白い歯がとっても印象的。
「キタキタキタァー!」
「ちょ、ちょと逃げるよ!
美紅も壱も興奮しすぎ!
葉月は壱郎の手を握ると来た道を引き返した。それに続く残り3人。
追いかける二宮金次郎。
「いひひひー!私を見たなぁぁぁ?(二宮)」
「やっぱりホントだったね。学校の七不思議。」
「そんな余裕かましてる暇ねーぞ!
つーかフツーに怖い、怖いってば!
余裕そうに走る翼に壱郎は突っ込む。隣には自分の手を握り、走る葉月。葉月の目は
何処か揺れていた。彼女も腕っ節などは強い方だとは言え未知の体験に遭遇している今、
彼女も自分程とは言わないが多少たりとも怖いとは思う。
(俺が・・・俺が葉月を守らなきゃ!)
それをもしも口に出していたら残りのメンツから
俺らはどーなるんだよ!?、と突っ込まれて
いただろう。襲ってくる銅像に振り向き、壱郎は銅像の前に立ちはだかる。
「おい、お前!もしも俺の友達を傷つけるようなことをして見ろ!」
暫く間が開く。静寂が俺達を支配した。そして数十秒後、壱郎の吐いたクサイ台詞を完全に
飲み込んだのか腹を押さえたのだ。
「・・・・・・ぷっ・・・あははっ!!もうあんた達サイコーだわ。」
「あっ・・・あんた・・まさか。」
聞き覚えのある笑い声に壱郎は銅像を指差す。
「あはははっ!私。綾音だよぉ。」
「あ・・・・綾ちゃんってば・・・ど、どぉして!?」
呆然としていた智鶴は、綾音のほうに駆け寄る。ひょっこり、銅像の後ろから出てきたのは
小柄な少女――いぶき。
「ほら、今日の夜に七不思議を見つけてくるって昼休み言ってたでしょ?」
「う・・・うん。」
「だから、特殊メイクをして驚かせようとしたの。帰った後からすぐに準備しててさー。
もう我慢比べみたいモンだったよぉ。いぶちゃんはそんな動けない私に情報を伝えてたの。」
後ろにいるいぶきを指差す綾音。
「最も・・・こんなんでギャーギャー言ってちゃこれから先、どうなるかが心配しちゃうけど。」
少し意地悪そうにいういぶき。これでも彼女なりに心配しているのであろう。
「ま、気をつけていってらっしゃい。生徒玄関は施錠してないよ。」
「じゃぁ行ってくるね。あ、それとデジカメで撮るから。」
葉月は最新式のデジカメを見せると、生徒玄関のほうへ壱郎達は歩き出した。
「でもさぁ・・その特殊メイクどーすんの?」
「そうだよね〜・・・理事長に頼まないと。」
「呼ぶ?」
「・・・・・・・・今は無理っしょ。だって今理事長・・・・・・・・・ねぇ。」
夜はまだまだ終わりを見せなさそう。


4分後、理科室へついた一行。現在の時間は23時58分46秒。
「・・・・後、2分ちょっと・・・だな。」
翼の左腕に付けられているデジタル時計が時刻を壱郎達に知らす。
「案外、オンタイマーでも仕込んであるんじゃない?」
「あー、ありえそう。」
「この手はビデオとか付ければ問題ないしね。」
正直これが1番緊張しなかった。そもそもこの手の話はいくらでも説明が付けられる。しかも
このようなテレビの設定などが豊富になった今、そう驚くようなことでもないのだ。
「後・・・30秒。」
葉月の凛とした声が聞こえた。
「20秒・・だよ。」
その場がしんと静まりかえる。
「残り10秒。」
大丈夫だ。怖くなんてない。俺は不死身じゃないけれど、変人達のおかげである程度は
怖い物は減った。苦手な物も減った。
「9・・・・8・・・・7・・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・・1・・・・0!」
0時00分00秒。ピッ、とテレビのスイッチが入れられた。
『や・・・やめてぇ!私を殺さないで!私は見てないの・・・・あなたが私の夫を殺したところなんて!』
『ぐへへへっ。奥さん。あの夫は俺の妹を4年前、八つ裂きににしたんだ。大丈夫、奥さん。
あんたを俺は殺しはしないよ・・・・・なんせ美人だからなぁ?(ジュルリ/舌を舐める音)』

「・・・・・なぁ・・・なんでよりによってこんなシーンなわけ?」
俺はマヌケな声を出した。
「仕方ないでしょー?そんなの。
深夜番組はアニメ以外、大概こんなノリなんだから。偶然よ。」
強制的に話を終わらせる智鶴。彼女はテレビに背中を向け、耳を塞いでる。
すると、デジカメ片手に興奮しながらシャッターを押す翼とそれを必死で止める美紅。
「って翼、なにあんたデジカメで撮ってるんだよ!?」
美紅がデジカメを取り上げようとするが、彼女の力のか弱い力では到底無理。
「恩田。
これは夜のおかずだ。俺にもハァハァをくれ!
「って最後のオチをシモネタで終わらせるなよ!嫌いな奴にとっちゃありがた迷惑だろ!」
残り5つ。暫く七不思議を体感することになる。
――夜はまだまだ終わりを見せなさそうだ。


後半へ続く。




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