プラスチックスマイル
LOVE・LETTER〜だってふぉーりんらぶなんだモン!〜
「でもこの間の日帰り研修は大変だったらしいわね。」
理事室で理事長のヅラ探しをする翼。ガツガツと恥じらいなくクッキーを食べる恩田。
ウルトラ魔法青年ススムの1巻を読むのは葉月。その隣から見ているのは智鶴。
――そして俺は縮こまりながら茶を啜った。
「まぁ、力士に踏まれ、迷子になって、とにかく・・・悪くなかったんじゃないの?」
理事長がいつも座る椅子にあたかも持ち主のように座るのは扇菜。
「でも・・・・・あれは忘れられない思い出だね(智鶴)」
ガタガタブルブルと震えながらいうのは智鶴。
「まさか力士が一斉に襲ってくるとは思わなかったわ。私もそれは考えていなかったの。
当然でしょ?どすこいどすこい言いながら襲ってくるなんて前代未聞だわ。でもまっ、
色んな意味で楽しかったんじゃない?」
まるで人の不幸を嘲笑うような目で扇菜は言う。
「嫌だよあんな地獄絵図!!もうあんな脂肪と脂肪のサンドイッチ体験なんてしたくない!
俺は巻き込まれてないけど。」
「ほぉ〜?でもねぇ南くん、あんた葉月さんと思いっきり楽しいデートをしたって聞いたよ?」
「って何であんたが知ってるんだ!?」
「私の部下を密かに派遣していたの。」
「ああ!?やっぱり金持ちのすることだわぁ!てゆーか大金をこのためだけに使うな成金女!」
俺はわんわんと泣く。やっぱりコイツ――悪魔だ。この悪女!この金持ちめ!
いつか成敗してやるぅ。
「もう時間じゃない?5限目の。」
「あ・・・そうだね。」
最初に美紅が立ち上がり、ぞろぞろとドアのほうへ向かう。
「それじゃーね。」
5人とも出て行くのを確認すると、扇菜はポケットから取り出す。
「はぁ・・・・この手紙、どうしろっていうのよ・・・。」
可愛らしい白の1つの手紙。そこには南壱郎さんへ、と綺麗な文字で書かれていた。
事態は昨日の昼休み。2年B組に遊びにきていたのはご存知扇菜。
「でも、ウルトラ魔法青年ススムってそんなに嫌?」
「嫌嫌嫌!!」
「えー!やっぱり面白いよぉ。」
いぶき、綾音も混じり3人でキャイキャイ言っている。話題があまりに濃いので周りは耳を傾けても
一体何の話題なのかさえ分からない。扇菜が誰かの気配に気付き、後ろを向くとそこには1年生と
思われる自分達よりも年下の少女が顔を赤らめていた。
「あ・・・・・あ・・・あの。」
腰まである綺麗な黒髪。顔立ちもつい見惚れてしまう位可憐は少女。
「えっ、何?」
扇菜は駆け寄ると、少女は扇菜の顔を上目遣いで見ながら言う。
「あの、南壱郎さんをご存知ですか・・・?」
もじもじと恥らう少女。
「知ってるよ。隣のクラスのごく普通の男の子。」
綾音が会話の中に割り込む。少女は後ろにやっていた手を出した。
「・・・・・手紙?」
「はい、これを・・・渡しておいて下さい。お願いしますっ。」
律儀に礼まですると教室を出て行った。
「嘘・・・・・。」
可愛らしい封筒。間違い、この類は――そう、恋を綴った手紙。
「ねえ、さっきの子一体何だったの?」
――ラブ・レター。扇菜は信じられない顔で手紙を見る、可愛らしい花のシールで止められている。
ソレが後に、とんでもなく大きい引き金になるのだとは誰も知るはずも無い。
(でも・・・・あの子、可愛かったわね。あーあ、勿体無い。)
「あー!!それってまさかラブふがふがー!(拘束)」
うるさい綾音の口をいぶきは即座に手で押さえる。
「ふがふがぁー!」
「でも・・・・一体何のためなのかしら。」
「だーかーらぁー!正真正銘ラブレ――」
言い終わる前にいぶきは近くにあった誰のかも分からない筆箱を綾音の後頭部目掛けて投げた。
綾音、あえなく気絶。いぶきは扇菜の持っている手紙を奪うようにして見た。
「い、いぶちゃん!?」
「ふーん・・・・朝賀恵梨さんね。」
「あさが・・・えり・・・?朝帰りっ!?」
アワアワと混乱し始める扇菜や、気絶している綾音を置いといていぶきは考え始める。
(でも・・・・壱くんって校内でも割りと(結構)彼女バカの半ヘタレくんよね。なのにあの子・・・。)
「で・・でもあの子可愛かったし!もうっ、親の顔が見てみたい。」
「まずは落ち着こうね。扇菜ちゃん。」
「あ・・・・うん。ごめん、いぶちゃん。」
しおらしく謝る扇菜を見ていた廊下にいる、他のクラスの男子が驚愕の目で扇菜を見る。
「・・・・嘘だ・・・!嘘だ!」
「ツンデレ少女がしおらしく謝っている!」
「空から槍でも降るんだろうなぁ・・・・。ううっ、気味悪ぃ。」
扇菜を無視し、彼女のことをグチグチいう3人。いぶきは扇菜のほうを見る。
――はぁ、これからの処理どうしよう、と早速これからのことを考え始め。
「・・・・・・・・・三角木馬。」
「さ・・・三角木馬?」
数人の男子は扇菜のほうを恐怖に満ち溢れた目で見る。すると怪しげに笑う扇菜はパチンと
何処かの有名人のように指を鳴らした。天井の上から忍者のように現れたのは黒服の――。
「ケリーにマイケル。三角木馬でコイツ等3人をリンチ。しかも公開リンチよ。」
「御意。」
「OK。」
4、5分後ぎゃぁーー!!と凄まじい悲鳴が聞こえてたのは・・・気のせいだと思う。
「ホント・・・・・このラブレターどうすんだか。」
これほど厄介なものは珍しい。本当は彼らの事のためにと今にでも引き破りたいそのラブレター。
だが、あの少女は純粋に彼ののために書いたのだと思う。あのリアクションを見れば確かだと――思う。
「あーあ・・・ホント、どうしようか。でもあの子、私が貢物さえ持っていけば解ってくれるかしら。」
手紙を持ち、理事室のドアノブに手をかける扇菜。このことは知られてはいけない。
いぶきと綾音は今のところ誰にも漏らしてはいない。しかし――あの2人はこの手の話に
関しては疎い方だ。
(やっぱり、人生の深みを知っているクオちゃんかな。)
光知久遠――人々を聖母マリアのように癒し、その反面時折どす黒い発言をするその少女。
(まっ、聞いたほうが絶対良いわね。)
ドアノブを開けると扇菜は出て行った。
「うーん!ようやく授業が終わったぜ!」
気分爽快、俺の心はのーびのび!教科書をしまう葉月の元へと俺は足取り軽く向かう。
「おーいっ♪はっづきー♪」
俺が葉月に抱きつこうとしたその時――
「あ・・・あの!南壱郎先輩っ!!」
か細い声。ソプラノの声は俺の足を止めた。廊下のほうを見てみると、恥じらいに包まれた
初々しい少女が立っていた。第一印象は「可愛い」の一言。
「え・・・?俺に用?」
これだけ可愛いと周りの反応もすごかった。うおお、と歓声を小さくあげる男子一同。
当然女子もとうとう恋の波乱かぁ!?と言ったように俺と、少女のほうを見つめる。
「あ・・・あの・・・・・・。」
「ん?」
少女は大きく息を吸い込むと、顔を赤らめて小さな、だけどはっきりしている声で俺達の前で言った。
「・・・・・・です・・・・・・・これだけは言いたくて・・・・アナタのことが好きです・・・・好きなんです・・・・。」
思考停止
誰もが呆然とした。言いたいことはあるのに、言葉として、発する事が上手くできない。
少女は言い終えるとその場から立ち去ろうとした。
「・・・・おい待てよ!それって一体どう言う事なんだ!?」
「え・・・・それは・・・。」
「壱・・・。」
葉月の弱々しい声が聞こえた。
「君は俺のことが好きなのか!?」
「え・・・・そ・・それはその・・・。」
言葉を詰まらせてしまったのか、口元を少女は抑える。
「なあ!?一体それってどういうことなんだ。」
「南さん!」
一通の手紙をやってきた桜さんが教室のドアを大声を出しながら勢いよく開ける。
「・・・・・・・・・まさか・・・まさか!」
あなた!、と少女の肩を強く自分のほうに引き寄せる桜さん。
「・・・・この手紙の中身って、本当にラブレターだったのね!?」
何が何だか分からない。桜さんは一通の手紙――ラブレターを手にし、少女はなお一層
困惑した顔つきで桜さんのほうを見る。
「・・・・桜さん。あんた知ってたのか?」
「ええ、昨日もらったのよ。代わりに渡してくれって。いぶちゃんや綾ちゃんも知ってるわ。」
「じゃぁなんで渡さなかったんだよ!?」
「何であんたに渡す必要あるのよ。渡す渡さないには私の勝手でしょ!」
少女の肩越しに、俺らは次々と言葉を飛び交わせる。
「どうせ、この子の手紙をあんたに渡したって結果は見えてるわ。」
「気持ちだけ俺は受けとる!」
「話を聞いてください!」
少女の一喝によって辺りがしんと静まる。さすがに俺も桜さんも口を閉ざし、彼女の話に耳を傾けた。
「・・・・・・おじさまが・・おじさまが好きなんです・・・南先輩のことを。」
――は?わ、ワンモアプリーズ。
「その・・・・・おじさま、いつも恋焦がれながら私に悩みを打ち明けていて・・・。」
「ちょとまって。手紙読むから。いい?」
「はい、構いません。」
『南壱郎へ
童顔であどけない幼さの残る壱郎。元気か?俺は優しくてカッコいいNICEな保険医の皆葉三彦だ。
君はいつも僕から逃げてばっかりだね壱郎。まるで、俺から逃げてるみたい(ふふっ)。姪に手紙を書きたいと
言ったところ、この便箋と封筒をくれたんだ。どうだい?綺麗だろう。俺の心と顔のように綺麗な便箋。我ながら
恥ずかしいね。キャッ。それより、最近ハヅキンとの中はどうだい?もしもトラブルがあったらいつでも相談受けるぞ。
そうだね。一緒にアンパンと緑茶を飲んでリフレッシュしようか。
BYビジュアル系の保険医。皆葉三彦
追伸:あ、それと貸した10円いい加減に返せよ。もう3年も経ってるからな。』
「・・・壱ってば3年過ぎても10円返してないの?」
「って葉月違う!そこツッコミ所じゃない!突っ込まないで!!」
「あんたねー。3年経っても10円返さないの?ギター買うだけの金があったら返したら?」
「って八波、それ俺が忘れてただけだから!」
皆葉三彦――アンパンマンのような愛くるしい顔をした怪しい保険医。俺がいつも保健室にやってくると
『お前なんか、地べたで寝転べ』や、『じゃぁ君、早退届け出しておきます。だるいのなら早退が1番だ』などと勝手に
決め付けるアホ保険医。しかも、手紙の文面に書いてある
事なんて嘘っぱちだ(10円は返していません)
「普通ビジュアル系とか、カッコいいとか優しいとかNICEとか!そっちに突っ込めよ!」
「そーゆーのはロケットで突き抜けないと。」
八波がわざとらしくガッツポーズをしていう。
「ってマイナーなネタ出さないでよ!」
「早く10円返しなさいよ。」
「桜さん!アイツを解雇して下さい。」
「やーよ。あの人、性格はアレだけど腕や分析は確かだからいーや。」
「そっそんなぁ!」
俺の上に巨石が落ちてくる、そんな感じだった。
「それで・・・・朝帰りちゃん。」
「朝賀恵梨です。」
「今夜私とお茶でもしない?夜景を見ながらゴハンを食べるの。」
「あ・・・はぁ・・・?
「って何気にナンパしてんじゃねー!!」
今度から、ラブレターは俺に手渡しを。直接告白する時はしっかり伝えたいことをはっきりと。お願いします。