「あんたら、馬鹿よキ●ガイよ小学生以下だわ。」
何故か縄で拘束されているにも関わらず減らず口を叩くのは桜ノ宮扇菜。
通所桜さん(扇さん)。
「大体ね、私がどうしてこのためだけに参加しなければいけないのかしら?明日は
大嫌いな数学と理科のテストだと言うのに……。それ以前にどうして甘栗1年分が
ココにあるわけ?ずるいわよ、ずるすぎる!てゆーかいい加減話しなさいよ。
お前のかあちゃんデーベーソ。」
「……ごめんよ桜さん。でもいいじゃん。桜さんかなりの運動音痴だから。すぐ戦力外
通告されるよ。安心しなよ……。」
俺は声を搾り出す。
「何がごめんよ壱郎さん。謝るなら縄でも解きなさいよ。それに運動音痴ってそーだけどさぁ……。」
「いや……ちょっとワケアリでさ。」
ポリポリと頬をかく。だが、扇菜は気丈な振る舞いを続ける。
「それがどう私と関係あるのよ?」
「それがさー……昼休みに近藤さんの持参してきたお弁当のカレーが、飛んだんだよ。」
一時沈黙。桜さんは俺を鼻を鳴らし嘲笑いで言う。
「……カレーが自由自在に飛ぶわけないでしょ?弁当に羽は生えていないわ。」
「いや、違うんだ。近藤さんが持っていてそれで溢して……八波の顔にダイビング。」
「最悪ね。事情は分かったから早く話しなさいよ。」
「でも桜さん、あんたその事情を聞いたらどうしてた?」
「決まってるじゃない。いくら腐れ縁とも言えど、智鶴ちゃんに土下座させるわ。」
駄目だ、コイツにこの話は通用しない、心の中で大きな溜息をつくと――暫くそこにいてと
覇気のない声で言った。
プラスチックスマイル 番外編
行くぜ!くまさんチームVSあひるさんチーム
「くまさんチームに3点追加です!」
総合審判、朝賀恵梨でお送りしている。ギャラリーも多く、他校までもが見に来ている程人は
多い。ざっと見ただけで200人はいるであろうギャラリーの多さ。お前等芸能人の撮影を
見ているわけじゃないんだから。
「……くまさんチーム。あんたこれどう言う事よ?くまさんチームですって?
幼稚園の組み分けじゃあるまいんだから。」
ブツブツと1人文句を垂れる少女。気分は最悪、調子は最悪。つまり最悪なのだ。何故か……とにかく最悪だから。
おっ、あれが理事長の娘なんだな。ロリコンらしいぜ――と他校のある男子Aが口走った途端、後ろから覆面を
被った男に峰内されたのは彼女の気分を台無しにしたからである。
「あ……お姉様。カレーの事で現在多くの人を巻き込んでどっちが悪いから決めているんですよ。」
恵梨は少々困った口調で言う。
「そう。でも正直くまさんチームってのは頂けないわね。チーム名つけたヤツのネーミングセンスのなさが
垣間見れるわ。」
自分の名字にスーパーキングを入れる程の馬鹿よ、と吐く。刺々しい声の調子からしてみれば、彼女は
頗る機嫌が悪いのであろう。普段から言う事が過激だと言うのに。
「はっ……はぁ……。あのですね、くまさんチームは綾音先輩2年B組を中心としたチームで対する
あひるさんチームは八波先輩とお友達だそうです。」
実際はお友達ではなく軍団なのだが。
今はくまさんチームが攻撃らしく、綾音が点数が入ったのかやった!と飛び跳ねるやいぶきに抱きつく姿が
見えた。
「この場合、うさぎさんチームじゃないの?」
「はぁ……。」
何と答えればいいのやら。チーム名如きは所詮飾りだと言うのに。
「ああ、でも所詮はあひるよね。ガチョウなら丸々肥えさせて美味しく(トリュフとして)食べさせてもらうけど、
あひるなんてクエクエと鳴き、ア●ラックとしか言えない脳のない水鳥だわ――って痛いじゃないのよ!」
「桜うるさい!」
消える魔球の如く投げられたボールは見事扇菜の顔面に命中する。
「コッチは必死になって頑張ってるんだから一々喋らないで!誰もあんたのグルメ講座なんて聞いてないんだよ!
――ってああっ!次の打者は二十一なの!?」
智鶴の焦り声がやけに耳に響く。それよりも――顔面に硬式ボールは痛すぎるのだった。
「桜いい?絶対動かないでね!恵梨ちゃんコイツ見張ってなさい。私」
「あ……は、はぁ……?」
見張って
「行くぜ二十一!」
ばびゅぅぅぃぅんと風を切る音が聞こえた。メジャーリーガーも驚きの消える魔球。マンガの世界でしか
見たことのない世界が今、目の前で繰り広げられいるのだ。
もっともそれは成り行きから始まり、扇菜に至っては強制的に智鶴の邪魔をしないように捕獲
されいる位、彼女(智鶴)にとっては真剣そのものなのだ。
ただ、智鶴以外の人間は、成り行きで、面白そうだから、一応友達だし、綾音を放置すると危険、
彼女のために、今度こそ徹底的に甚振ってやる、うわぁボク敏感なのに、それならパ●プロしたい、昼練ある
んだけどさ…などなど。誰も彼女のためなど思っていないのだ。もしも扇菜が彼女のチームに入る理由は
甘栗が食べたいから、の一言。
「甘いよ八波。」
メジャーリーガーも吃驚のボールを平然と打ち返し、ホームランを決める。
「あ、ホームランです。」
「……く……くっそぉぉぉ!!燃え尽きたぜ……燃え尽きたぜ×××ーーーっ!!」
1人マウンドで雄叫びをあげる智鶴。その姿はまるで某ボクサーマンガのように。熱血シーンに水を差すようで
悪いのだが扇菜は切り捨てるように
「馬鹿ね。」
と吐いた。
「お姉様。折角ようやく盛り上がってきましたよー!ってシーンだったのにその一言で全てムード打ち壊しです。」
「そうかしら?」
怪訝そうな顔を見せる。
「それよりいぶちゃん。今何対何なの?」
「あひるさんチームが3点で………。」
「で?」
いぶきは沈黙を解くと、はぁと溜息をつく。ためらいつつも教えた。
「くまさんチームが103点。」
「恵梨さん。コールド負け…だったかな?であひるさんチームの惨敗にしといて。」
「ちょっと待って!私まだいける!」
椅子に縛られている扇菜の前まで走り、息を切らして力みながら言う。
「無理よ。どう考えても9回表でこれじゃぁ無理よ。それに……あんた燃え尽きたんじゃないの?」
「違うもん!」
すると、おおーいと手を振った。
「?」
「扇菜ちゃーん!智鶴ちゃんは燃え尽きたんじゃないよ。萌え尽きたんだよ!」
遠くから聞こえるのは綾音の甲高い声。知らない人は知らない、知っている人は知っている言葉を
発した。その場にいたギャラリーの中の同人女(男)が驚きを隠さない(隠せない)
「そっちも違ぁう!」
「どっちにしろ負けよ。」
「私がコケのは無実だったんだね。さっ、智鶴ちゃん土下座して。」
2人に睨まれる。
「どうしてくれんのよ?」
「ホント、どうせ負ける事は分かってたんだからさぁ。」
「ううっ!皆苛めっ子!」
「そんなアレじゃあるまいんだから。」
アレとは勿論ついさっきホームベースを踏み終えた二十一の事である。
「まぁ私はくまさんチームが勝って良かったわ。甘栗分けてもらえるし。それにいいじゃないのよ。」
「お前はええわ!」
素の関西弁が出てしまった。
「むむっ!素直に負けを認めてよね!」
流石に腹を立てたのか綾音は智鶴を追っかけ始めた。
「認めたくない!」
「認めろー!」
「いやーっ!」
お前等何歳児だと突っ込みたくなるのを扇菜は押さえ、甘栗甘栗と嬉しそうに甘栗のある台までスキップで
向っていった。
終われ