P r e s e n t f o r y o u
何かほしいか?と聞けば
お好きなように。と笑顔で返される
それに故に竜騎士――クーガーは困っていた。
ゼトやデュッセルに聞いてもそれが分かっていたら
エイリーク様(アメリア)に対して苦労していないと
言われたし、本人たちも随分と忙しそうだったので
これ以上聞くのをやめた。
木陰で1人聖書に目を通しているアスレイに聞いてみる。
「アスレイ。もしもお前が好きな女にプレゼントすると
するなら何がいい?」
アスレイはクーガーがまさかこんな事を言うとは
思ってもいなかったらしく、クーガーの顔を神妙な
顔つきでみていた。
「えっ……プレゼント、ですか?」
「ああ。」
クーガーの声が少しだが刺々しい。
「ゼトやデュッセル将軍にも聞いてみたんだが。
そうしたらそれが分かっていれば苦労なんて
していない。と言われてしまって――。」
アスレイは本を閉じ、暫く考える。
「………何処か誘ってあげるなんてどうでしょう?」
「誘う?」
それは全く考えていなかった。クーガーを他所にして
アスレイは話す。
「時間があるときですが、ルーテさんと一緒にルネス近辺の
博物館や遺跡巡りをしているんです。ルーテさんは
知的好奇心が旺盛なんで楽しんでいますよ。」
「でも最近その魔道師はルネス騎士に興味を持ち始めている。」
「うっ!」
アスレイはその言葉を聞き、嬉しそうな表情が一変、何か
詰まったような顔つきになる。
「そ、それはいーっ一時的な興味なんだと思いますよ!だ、だって
仕方ないじゃないですか。そりゃ徒歩より馬のほうが救出にも
便利で――ど、どうせ私ヴァルキュリアにもマージナイトにも
なれませんよ!所詮司祭か賢者で……!で、でもですよ移動力には
欠けていますが賢者のほうが魔力の最大値は高いし、司祭に
なれば魔物特攻できますし……。」
たった一言でアスレイが此処まで落ち込むとは――。
クーガーは小声でさよならを告げるとその場をそそくさと去っていった。
「ナターシャ。」
「はい?」
扉を開けるとナターシャは箒を動かす手を止める。
「その……この間言ったことだが――」
「この間……?」
記憶を辿り、クーガーが以前自分に欲しい物があるか?と自分に
尋ねたことを思い出す。
「私は本当に何もいらないんです、だから――。」
「いや、そのことで俺も色々考えたんだが……その、近いうちに――。」
拒否されてたまるか――クーガーはナターシャの声を言葉で抑制する。
何度も心の中で繰り返し練習したのだが、言葉が喉につっかえる。
――一緒に何処か行かないか?
ただ相手を誘うのにこれだけ苦労したことはない。
以前グラドにいたとき、よく兄や同僚と街へ繰り出したことはある。
誘い誘われでその時は緊張など全くしなかった。
「クーガー……さん?」
ナターシャは心配そうにこちらを見ている。
今言わなければ一体いつ言うんだ!と自分に喝を入れて、
声を絞り出す。
「今度一緒に何処か行かないかっ!?」
やっとのことで言えたクーガーの顔はいつもより赤く、声も少々高く
なっていた。
クーガーの言っていることをナターシャは段々と理解し、
目の前の青年を見る。
「あ、あの……それって――」
「デートだ。」
さっきの緊張は何処へやら。クーガーは平然と言うとナターシャから
視線を外す。
「…も、もし私で良かったのなら……お願いしますっ。」
お互い顔を赤くして暫く突っ立っていた。
――信じられない。
好きな人から目の前でデート(注意:まだ恋人同士ではないぞクーガーくん)の
約束を交わすなんて。
思わずナターシャの手を両手で握り締める。
「本当にいいのか!?」
「…………はい。」
微かに聞こえた最後の語尾はYES。クーガーは顔をほころばせる。
「じゃあルネス城を奪還した後にしよう。」
「そうですね。サンドイッチか何か作りましょうか?」
「ああ、頼む。」
じゃあ用事があるから――そう言ってクーガーは扉を開けようとする。
「待ってください!……誘ってくれて、ありがとうございます。」
「ナターシャ……?」
後ろを振り返るといつもの柔らかな笑みを向けてくれる。顔の赤みは
まだ抜けきっていない。
「――ああ。」
クーガーは扉を開けて部屋を出て行った。
ナターシャは箒を取り、また掃除を始めた。
外へ出ると
「クーガー……お前は立派な漢(おとこ)になった。」
と涙混じりにデュッセルに言われ
「私がきっかけを作ったので次はこっちのきっかけも
作ってくれませんか?」
とアスレイに泣きつかれ
「よーし!私もクーガーに負けないようにエフラムに
アタックしなくちゃ!」
とターナの脱!片思い宣言を聞かされ
「まあ頑張ることだな。はー、エイリーク様ぁー。」
と姫と騎士との障害ある恋を呪うゼトを無視して
自室に戻ろうとした矢先――
「リザイア。」
何処からともなく現れた根暗闇魔道師の攻撃を
受けそうになり、ジャハナの風来王のランスバスターを
かわしながら自室へ戻っていった。
後書き
もはやクガナタ支援は恋愛支援としか見られない私がいます。
あれだよ、ヨシュナタだとヨシュアが軟派だし、手が早いので
こんなん絶対できないし、ノールは好きなんだけどナターシャさんに
中々思いは伝わらないと思うし(何よりノールさんはそうこうしている
うちにリオンと一緒に憎きエフラムに掘られそうですし)。
なのでクガナタは初々しくなるわけです。だってクーガー
硬派だし男前だし、後女性にあんま興味なさそうだし、ブラコンだし。
ナターシャさんは初物だと思うよ、うん。