説得




ハミル渓谷では熾烈な戦いが繰り広げられていた。
敵に特攻するゼトやフランツを始め、後方では増援にやってくる
敵軍を魔法や剣で一掃していた。
ナターシャはエイリークの近くで後方で待機している。
時折武器を受け取るためにエイリークの元へ
ヴァネッサがやってきたり、守備が弱い魔法使いの
回復をしていた。
フランツたちの前に敵があらかた消え去ると、
エイリークより先に魔道師達がフランツの後を追う。
「ナターシャ、エイリーク様。お先に失礼するぜ。」
「あ、はい。」
じゃあな、とヨシュアはナターシャの頭をポンポンと
軽く叩くと、足取り軽くフランツ達のほうへ行った。
増援もだいぶ減ってきた。この調子なら敵の大将を殺すのは
容易いことだろう。
先ほどより心に余裕ができていたとき――
後方にいたエイリーク達の前に、3匹の飛竜が降りてくるを
ターナは見逃していなかった。
「エイリークっっ!増援よ!」
彼女はペガサスの羽をはためかせ、エイリーク達の元へと
近づいてくる。
「ドラゴンナイトの軍勢がこっちへやってくるわ!!」
エイリークはターナの言葉を背中で受け取る。
目の前にはターナの言った通り、ドラゴンナイト。そのうち
1人は自分を執拗に睨んでいる。
「ありがとうターナ!」
と明るく声を出してみる割りに実際余裕はない。ヨシュアに先ほどランスバスターを
持たせていき、自分を睨む相手はキラーランスを所持している。
あの武器を使えるということはかなりの使い手だろう。
それが自分1人だけならまだいい。
――問題はナターシャだ。
彼女は1人で戦う術は持っていない。いつもはヨシュアの後ろで
杖を振るっていたが、今回はそうもいかないようだ。
「ターナ!ナターシャさんを救出して早く!」
ターナは手綱を引っ張り、空を駆け抜ける。
そして一気に急降下。
だが――相手は急いでいるターナを見逃してなどいなかった。
竜は轟きを上げ、ペガサスに攻撃を与える。
ペガサスは天まで届きそうな位大きな悲鳴を上げる。
ダメージを受けているターナをまた別の竜が攻撃する。
皮を引き裂く音がエイリークの耳へと伝わる。
「ターナ!!」
エイリークはターナのほうを振り返りたいが、自分の前には敵兵がいる。
エイリークはただ声をあげるしかできなかった。
ペガサスの悲鳴が聞こえた後、炎の燃える音と雷が落ちる音が
聞こえ、心の中でほっと一息つく。
だが、エイリークは自分の周りが暗くなっているのに気付いていなかった。
「危ないエイリーク様!」
ナターシャの声が聞こえた刹那――
自分の鎧を槍が見事に貫通する。心臓ではなく右肩に。
どさりと、その場に崩れ落ちるエイリークを見下ろす。
エイリークは右肩を抑え、歯を食い縛りながらよろめく。
壊れかけの剣を構えて。
「兄貴の仇!!」
エイリークの胸元狙って槍を振るおうとした。
目を凝らし、槍の軌跡を辿ろうとする。
――だが見えない。兄が振るう槍を幼い頃から見ていたし、この戦争中でも
槍を使う敵兵と戦い、戦渦を潜り抜けてきた。
だがドラゴンナイトは初めてだ。
――すみません、兄上。
エイリークは瞳を閉じ、全てを放棄する。
相手は自分が何を言ってもその声は届かないだろう。
たまっていた疲れが体から出て行き、軽くなったように感じる。
聞こえるのは涙声を孕むドラゴンナイトと、エイリークを助けるために
馬を走らせ大声で自分の名を呼ぶ家臣。
だが――家臣の声は途中で止まる。
「……ナターシャ……さん?」
「エ……エイリーク様……。」
ゆっくりとナターシャはエイリークに振り向く。口から血を流し、
それでもなお微笑む。
相手も予想はできていなかったようで、目を見開いて鮮血がついた
槍を呆然と見ている。
「……何故そいつを守る?」
やっと出てきた言葉は相手への疑問。ナターシャは口元を抑え、
咳払いをする。
「私はあなたと同じグラド人です……!しかし贔屓目に見ても今の
グラドは間違っています。ウィドガルド王は狂ったように他国を攻め、
リオン様は王を止めようとしません。」
「しかし俺が聞くところ、総大将であるエイリークはグラドの市民を
虐殺していると聞いたが?」
――違います!
彼女にしては珍しく大声をあげて否定する。
「エイリーク様は心優しい人です!」
「じゃあ何故兄貴を殺す!?」
「エイリーク様はグレン様を殺していません。寧ろグレン様は
私たちのことを信頼してくれました!」
ナターシャは此処へ来る前に出来事を思い出す。
あの時グレンが自分達を信用していなかったら今頃皆殺されて
いただろう。
だがエイリークの熱意がグレンの心に伝わり、敵将ながら自分達を
信頼してくれてウィドガルドを問い質してくれるとまで言ってくれた。
「それに私たちは今初めてグレン様が殺されたことを知りました。
……この事を認めなくても私は構いません。でもこれだけは
知っておいて下さ――。」
視界が段々ぶれていく――ナターシャは目を閉じその場にゆっくりと
倒れる。
ナターシャを受け止めた竜騎士は方向を変えてつれてきた
竜騎士たちのほうを見る。
「な、なあクーガーァ。まさかお前寝返るつもりじゃねーだろうなぁ?」
「そうだぜ!?俺らは忙しい中兄貴の敵討ちだかなんだかしらねーけど
時間割いて態々――」
鎧を貫く金属音が聞こえる。眼光を輝かせてて言う。
「悪いな。」
抱きしめるナターシャの体と、槍を持つ手を一層強く握り締めて。



後書き
エイリークルートでもしクーガーの説得相手がエイリークでなく
ナターシャだったら?という私の妄想により製作開始。
戦闘シーンを書いている時は楽しくて楽しくて……。
実際ゲーム上ではドラゴンナイトはクーガー含めて3体しか
いないわけですが、ここでは大勢います。

この話の設定としては
・ナターシャはグレンのことは知っているが、クーガーは知らない。
・クーガーはヨシュア登場章のとき、ナターシャを捜索していたが、
顔ははっきりと知らない。

支援上ではどうやら2人は顔を見知っていないようですねー。
後微妙にヨシュナタだったりします。ナターシャ受け万歳。

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