突然
視界が赤に染まろうとしていた。つい先ほど魔物に襲われ、
怪我を負い何とか倒したものの、追い打ちをかけるようにノールの
ほうに魔物がやってきた。
周りはノールとナターシャしかいない。いつもナターシャの近くにい
るヨシュアはエフラムのほうに増援がやってきたと聞き、そちらのほうに
行ってしまった。
魔物は数匹だったし、何よりどれも弱かったのですぐに打ちのめす事が
できる筈だった。
だがこちらにもすぐに増援がやってきて――ザシュ。
ノールは目を見開いた。目の前に魔物がやってきて、諦めようとした時に悪夢は
起った。
「……!」
魔物はライトニングによって消滅したが、ガーゴイルの槍が、ナターシャの肩に
深く突き刺さる。
事態は一刻を争うようになってしまった。
「ナ……ナターシャ殿!」
ノールは珍しく取り乱し、ナターシャにライブをすぐさまかける。
傷は見る見る癒えていくが、完全に治りはしなかったようだ。
ナターシャは肩を押さえ、よろめきながら杖を支えとして立ち上がる。
ナターシャは土埃を払い、さっきノールがしたのと同じ行為を彼にする。
彼女は笑顔を見せて良かった――と吐息のように漏らす。
「無事で何よりです。」
――悪いことをしてしまった……。
ナターシャの言葉を聞き、罪悪感が襲ってくる。今、かばってくれなけば
確実にノールは死んでいた。
だがナターシャはただでさえ自分より体力が少ないというのに体を張ってまで、
自分を救ってくれた。投げ出した命をナターシャは戻してくれた。
当人は善意のみで自分を救ってくれたのだろう。
「ありがとうございます……。」
詰め寄りたかったが、ナターシャの優しい空気がそれを許さなかったように思える。
なのでお礼と謝罪を兼ねた「ありがとう」を言う。
「いえ、困っている人を助けるのは私の役目です。」
シスターらしい、謙虚な言葉を耳にすると彼女らしいと思う。
「そんなに謙虚にならなくてもいいですよ。」
「いえ、これは当然のことです。」
ナターシャは眩しい太陽の光線を、手で仰ぎながら言う。
そこには一つの黒い影。
遠くから聞こえる翼をはためかせる音。2人の上に
大きな影ができて、声が上空から聞こえる。
「大丈夫か!?」
ドラゴンが下へ降りてゆく。
「あ、はい。私もノール殿も傷は癒えましたから。」
「そうか……ならいいんだ。さっきお前から血が出ていたから……。」
「……彼女は私を庇ってくれたんです。」
「そうだったのか!」
クーガーはナターシャに大丈夫かと強く問う。
「はい、何とか……。」
だが振舞はやっぱり弱々しい。それをクーガーは悟ったらしく、
「暫くは傍にいたほうがいいな。魔道師だけじゃ何かと危ない。」
と強く言い聞かせるように言う。
「でもクーガーさんも気をつけて下さい。魔法と弓には弱いのですから。」
ナターシャにしてはおどけた口調でクーガーをからかう。
前々から2人がよく談笑している姿を時々見ていたが、グラドという
敵国の同郷なのか睦まじくしている。その中にアメリアや
デュッセルも時々いる。
ノールは辺りを見渡す。見つけた敵を2人に溜息混じりに伝える。
「喋っているのは構いませんが来ましたよ。」
前を見ると小高い山に魔物が5匹ほど、こちらを見ている。
「じゃあ早々に終わせるとするか。」
「そうですね。ノール殿も無理をなさらないで下さい。」
彼女はまたいつものように笑い、クーガーの後について行った。
ノールの足取りはいつもより、僅かだけ軽かった。