退廃した王国
マリスは眠っているリアの横でコーヒーを飲んでいた。
すやすやと安眠する王女の顔を見てほっとしてしまう。
来月から魔人領を攻めることになる。かつてない大規模の戦争に
なるであろう。
もしも魔人が攻めてきて、ランスが死んでしまったらどうしよう。
ランスの死はリアの不幸にも繋がる。
「リア様……例え王が死んでも、魔王が覚醒しても、世界が滅びようとリーザス
王国は――いえ、リア様のお国は絶対退廃などさせません。」
そっとそっと、起こさぬようにマリスはリアの髪を撫でる。むむっと一瞬だけリアの
顔が歪んだようにも見えたが、安らかな顔に戻る。
「リア様……王は絶対私が引き止めます。」
ピンクの髪の少女になど渡さない。ランスの隣にいるのはリアなのだと――と。
脱国
ランスをこの手で殺してしまった。未だにこの行動が理解できない。コードというゼスの忍者に
出逢い、一緒にいるうちにランスが憎くなってしまった。
整理中なのにアイツは無理して私を襲い、SM塔で折檻されてしまった。
もう耐えられなかったのだ。ランスの仕打ちに。シィルが死んでしまった反動もあると思うけども……。
「かなみ?」
目の前にはかなみに暗殺を持ちかけた男がいる。かなみの腹の中にはきっとランスの子供がいる。
――今なき、あいつの子供。腹が疼く。かなみは無理に笑顔を作った。
「ええ、大丈夫よ。」
リア様ごめんなさい、折角助けてくれたご恩をこんな風に無駄にしてしまって。
「ちょっと疲れちゃっただけ。」
マリス様ごめんなさい、リア様の護衛という名誉ある職務を私に与えてくれて。
「ココを出ればヘルマンよ。」
シィルちゃんごめんね、狂ってしまったランスに何もできなくて。
「さっ、行きましょ。」
メナドごめんね、私ってばやっぱり不幸で、男運ないや
ランス――本当に、本当にごめんね、私……やっぱり不幸な忍者だね。
レジタンス
リーザス解放戦。それはリーザスにとって非常に重要な戦争の1つだ。
首謀者はただの冒険者であるランス。そしてその奴隷であるシィル達。無謀とも言えたヘルマン侵略を
防ぎ、そして追い出したのはリーザスにとって彼は救世主であり、覇王であった。
地上の鬼畜大王、それがランスなのだ。
「おいシィル行くぞ!」
「はわわ、待ってくださいランス様ぁ〜。」
やる事なす事全て無謀な青年、それがランスなのだ。たとえ彼に天罰が下ろうと、世界が滅びようと、
シィルを失っても……あの解放戦のように全て取り戻せばいい。
表向きは世界のため、真実はの己のために。
彼の辞書に絶望という二文字はない。
やられたらやり返せ、ムカついたら反乱でもしてやろう、がははは――今日も彼は大声をあげて笑う。
逃亡生活
ナギ・ス・ラガールは空を見上げていた。今、自分と同行しているアリオスは薪を取りに行っている。
あれからナギは志津香の前から消え去り、更なる力を求めて魔人領へ旅を始めた。
その途中、ナギが倒れているところをアリオスに拾ってもらった。
『ナギ、魔王が誕生してしまった。』
その話を聞き、ナギはピクリと反応した。私はその魔王に会う――それを言った途端、アリオスは駄目だ駄目だと
ナギの肩を掴んだ。
『……私は、更なる力を求めている。』
『ナギ、良く聞いて。僕とナギと後4人。その力があれば魔王を倒せるんだ。』
ナギは決心した、アリオスと手を組めば魔王を倒せる。つまり自分が新しい魔王となり魔想の少女に勝てる――と。
アリオスを裏切る事になっても、ナギにとっては仕方ないのだ。
「ナギ、お待たせ。」
「………遅い。」
ぴしゃりと切り捨てるように言う。だが、声はいつもよりも多少は優しかった。
「ごめんよ。遠くまで行っていたから。」
「……そう……か。」
「先に朝食食べてたんだ。」
「ああ……。」
「僕も食べるよ。」
今日は宿屋に泊まれるよ――とアリオスは笑う。その笑顔を見ると、ナギは裏切りにくくなってしまうのだ。
「ナギ……?」
ナギはアリオスに抱きついた。
「ナギ……?」
「すまない、アリオス。」
この逃亡生活が終わることには、ナギはアリオスを裏切る。魔王、ナギとして。
伝染する恐怖
魔王は恐ろしい物だと言い伝えられてきて早数千年。ジルやガイは恐怖の象徴であった。
そして今の恐怖の代名詞は来水美樹になろうとしていた。
「私、魔王って実感ないようであるんだ。」
「美樹ちゃんに魔王になんてならせやしないよ。」
「ありがとう健太郎くん。」
健太郎の握りる聖刀日光はその様子を複雑そうな気持ちで見ていた。
自分に挑んだ魔王ジルとは雰囲気が違うが、魔王であることには変わりない。自分に恐怖を
植えつけた張本人がその場にいる。これがジルであったら殺したいところであった。
日光の中にある魔人への恐怖、畏怖、憎悪は消えることはないであろう。
戦場のマリア
「メルフェスさん!早く逃げて下さ―――」
シィルはアレックスの光の渦に飲み込まれてしまった。一瞬の出来事であった。アレックスの放った
白色破壊光線が全てを飲み込んだのだ。
メルフェスは今は亡きシィルの屑を呆然として見ていた。
ランスを癒す唯一の存在であり、ランスの半身。それが今、何もできない自分の前で跡形もなく
屑となったのだ。
ランスに、顔を会わせる事ができない。
「シィルさん……シィルさん!!」
戦場の中でもランスが笑っていられたのもシィルのおかげなのだ。シィルがいなくなれば、ランス王は
どんな顔をするのであろうか。
あの人はランスにとって女神(マリア)だった。そのマリアが今、この世界から消えてしまったのだ。
――メルフェスは下唇を噛む、鉄の味が口内に広がった。
「た……退却しなさい!今戦ったところで勝ち目はありません早く!!」
声を張り上げ、メルフェスは部下に命令を下した。
もう、ランスにとっての女神(マリア)はいない。
一度だけの哀歌(エレジー)
シィルが死んでしまった。ランスにとって世界の終わりが告げてしまったのも同然だ。
マリアは泣き崩れ、それを志津香が慰めている。かなみは愕然としていた。リアは納得のいかない
展開に腸を煮え繰り返している。あのマリスも目を開いていた。
そして数ヵ月後、ランスは魔王となった。
「なぁ――シィル。俺様、魔王になったぞ。」
墓から何も返してこない。
「ちっ、貴様は何で俺を止めてくれなかったんだこのバカモノ。」
シィルの声は聞こえない。
「とにかく!俺は魔王になった!貴様のために俺が1曲用意した。題名はそうだなー……世界の王者
ランスくんだ。」
賞賛の声は何も無い。だが、ランスは歌い始めた。稚拙な曲だが、ランスにしては頑張ったほうだと
思う。
「がははは……。」
いつもの図太い笑い声が止まった。ランスは真顔に戻ると、シィルの墓前に花束を置いた。
「1000年後に会おう。シィル。」
1000年経てば、シィルに会えるから――それまでの辛抱だ。
武装理由
「っと――。」
慣れた手つきで鎧を気負えるのはロレックス・ガトラス。現在へルマンでは対リーザス戦が勃発している。
当然彼は将軍なので動員されている。本当はそんな事したくもないのに。
「よし……。」
鎧を嵌めて早数十年。彼にとってはあっという間だった。たった1人の妻に出逢い、そして失い、全てを
失ってしまった。
「俺は……お前のところに逝くかもしれない。」
いくら彼が腐り果てても武装しなければいけない。逝くといっても彼は逝かない。今は隣にいない妻のために
彼は妻の分まで生き抜くのだ。
――ロレックス。
今はもうその言葉を聞くことはないだろう。妻の可愛らしい口から出る、自分の名を呼ぶ声は。
昔は妻を守るために武装してきた、でも今は――妻の分を生き抜くのが彼のブソウリユウ。
涙と殺意と武器
父が死んだ後、志津香は涙を見せることが少なくなった。それ以前に、人に対して心を開きにくくなった。
幼少の頃に両親を殺された父にとってはラガールを殺すことしか頭になかった。
「ねぇ志津香?」
「何?」
「――今幸せ?」
ラガールを殺した後、爽快感も何もなかった。残ったのは虚しさだけ。殺意は消え、魔法(武器)も自分の
思っていたラガールに対して使った。ラガールを殺したときに出てきた涙を抑えようとしたけど、ボロボロと
滝のように出てきた。
それから数週間。ランス達と別れた後もそのことで虚しさをずっと覚えていた。
「……そうでもないわね。」
「やっぱり、だって志津香全然嬉しそうじゃないもん。」
「そう……。」
涙はだいぶ枯れ、殺意も消え、魔法(武器)も本来の目的に使った。でも満足いかない。
志津香はマリアに寄りかかった。
「志津香――?」
「暫くこうさせて。」
「……うん。」
マリアはそっと志津香の頭を撫でた。
死亡者数
「はぁー………誤算でしたね。」
エクスは盛大な位溜息を吐いた。
「やはりピカか?」
「ええ。良かったですねランス王。シィルさんを選ばなくて。」
「ふん、さすが俺様だな。」
ランスは最初、アダムへの駐在の候補にシィルを入れていたが急にシィルとヤりたいと言って
シィルは外されたのだ。
「でもランス王。これでも被害はピカだけでヘルマン戦の半分はありますよ。」
「ホ、ホントかそれ?」
「ええ……一体どうするんですか?」
「うーん。どうするかな。とにかく俺様の考えている最中に貴様の小言なんて聞きたくないし、男を
前にして考えたくないからまず出てけ。」
やっぱり言われると思った、エクスは心の中で思うと適当にはいはい、と言い戻って行った。
「あ、エクス一言これだけは絶対作戦に入れろ。」
「?」
「美女は生け捕りだ。」
やっぱり――エクスは苦笑を浮かべると手を振りながら戻っていった。
後書き
書いていて無茶苦茶楽しかったです。と言うか、ネタ切れ防止のために借りてきたのですが……。
基本的に、特定のキャラに偏らなかったので良かったです。にしてもあまり暗くないですね。
レジスタンスのところなんて割りと爽やかですし。ランスの世界観は表からどろどろを
見せていないところが魅力なので必然的にそうなってしまうのかも。